「ジャックはいつも、色々なユメの話をしてくれたんですね、ありがとう、ジャック」
* * *
懐中時計の針が七をさし、窓際のポトスが鮮やかなイエローグリーンに照らされていた。
「……ロ……」
「!?」
「パウロ……」
「フィオーレ!」
「おはよう……ございます……パウロ」
「あぁ、おはよう、フィオーレ」
しばらくの沈黙の後、フィオーレは、天井を見たままゆっくりと口を開いた。
「パウロ……不思議な、事が、ありました。そこは、何もない……小さな島で……私は、波の中で……なにかを見つけました」
「フィオーレ……」
「それから……断片的ですが……昔のことを、思い出しました……あれが、ユメ……なのでしょうか?」
「そうだね、そうかもしれない」
「ベアートの言う通り……とても不思議なものでした。でも……それなら、私は……もう一つの、ユメも、見たいです」
「もう一つのユメ?」
「願い、です。私は、機械人形ですが……人と、パウロと、未来がみたい」
「フィオーレ……」
フィオーレがパウロに小さく笑いかけると、パウロはフィオーレを優しく抱きしめた。
* * *
「パウロ、おはよう!」
「おはよう、フィオーレ。今日も元気だな」
フィオーレと出会ってから何度目かの復活祭の日。街や人が少しずつ変わる中、大聖堂の大時計は、一度も止まることなくフィレンツェの時を刻んでいた。
フィオーレが日課の水やりをすませ、復活祭に行こうとした時、ドアノッカーが二度響いた。
「おはようパウロ、フィオーレ。例のやつが出来たぞ」
「おはよう!」
「ベアート、随分と早かったな」
「それはそうさ、なんたって――」
「はやく、はやく!」
ベアートは、フィオーレにせがまれるように、持ってきた四角い荷物をテーブルに置き、包みの布を広げた。
「うわー、素敵ね!!」
「あぁ、いい絵だ」
包みの中の肖像画には、イスに座るフィオーレと、それに寄り添うパウロが描かれていた。二人してみとれていると、
「おいおい、こっちの二人は彫刻になったんじゃないだろうな」
「すまない、あまりにもいい絵だったんでな。ありがとう、さっそく飾るとしよう」
パウロは、工房の壁を見渡すと、ベアートが初めて持ってきた肖像画の横に並べて飾った。
「よし、こんなもんか」
パウロは、二枚の肖像画をみて、あの日の出来事とこれまでの日々を思い返した。
「ねーねー、パウロ!」
「ごめんよ、フィオーレ」
「改めてありがとう、ベア―ト」
「ベアート、ありがと!!」
「どういたしまして」
そういって軽く手を上げると、ベアートは満足げに帰っていった。
「さて、復活祭に行くか」
「うん!」
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